
『かんだやぶそば』の蕎麦は、なぜ緑色をしているのだろう
写真と文=片山虎之介
『かんだやぶそば』、『並木薮蕎麦』、『池之端藪蕎麦』(平成28年(2016)に閉店)は、藪御三家と呼ばれる。『かんだやぶそば』の初代が堀田七兵衛。その三男、堀田勝三が創業したのが『並木薮蕎麦』。同店から昭和29年に暖簾分けされたのが『池の端藪蕎麦』だ。初代は『並木薮蕎麦』堀田勝三の三男、鶴雄である。御三家と呼ばれるのは、いずれの店も『かんだやぶそば』初代、堀田七兵衛と血縁になるためだ。
『かんだやぶそば』では、ゆったりと、蕎麦を食べる時間を楽しみたい。
盃を傾け、名物の「小田巻蒸し」を味わい、ときには蕎麦を食べずに帰ってもいい。蕎麦一枚、酒一本の値段で、明治、江戸へと続く時間の流れに身を置くことができるのだ。なんと安上がりなタイムトラベルだろうか。
最初は蕎麦の若芽を練り込んだ
『かんだやぶそば』の蕎麦は、緑色をしていることが特徴のひとつだ。堀田七兵衛が、蕎麦の味が落ちる夏の時期に、見た目だけでも客に清涼感を楽しんでもらおうと、蕎麦の若芽を練り込んだのが始まりだという。
現在は若芽の代わりにクロレラを使っているが、緑色の蕎麦は『かんだやぶそば』の、伝統のひとつとなっている。
創成期『かんだやぶそば』の名が全国に広まると同時に、緑色の蕎麦も遠国にまで知られた。
その実証を、北海道の釧路に見ることができる。
釧路の老舗蕎麦屋『竹老園東家総本店』は、明治2年創業の名店だ。この店の蕎麦は『かんだやぶそば』に似た緑色をしている。クロレラを練り込んでいるのだという。それが『竹老園東家総本店』のトレードマークであり、釧路の人は、蕎麦とは緑色をした食べ物だと思っている人が多いという。
『竹老園東家総本店』の4代目、伊藤正司さんの話によると、その昔、東京の藪蕎麦は、日本中の蕎麦屋の憧れの的だった。そのため蕎麦粉を販売する業者が「藪粉(やぶこ)」なるものを売っていたという。蕎麦粉の中に緑色になる色素が混ぜてあり、その蕎麦粉で打つと、緑色の蕎麦ができた。各地で蕎麦店が、この藪粉を使ったという。『竹老園東家総本店』も、その一軒だった。当時の伝統がそのまま残り、同店の蕎麦は今も緑色をしている。
「かんだやぶそば」は、全国の蕎麦屋が憧れる店
また、北海道の小樽には『藪半』という蕎麦屋がある。この屋号は、「藪蕎麦の半分になりたい」という気持ちから名付けたという。藪蕎麦というブランドが、蕎麦にかかわる人々にとって、いかに大きな魅力を持っていたかを物語る一例だ。
緑色をした蕎麦は『かんだやぶそば』の特徴であり、御三家の他の店はまた、個性が異なる蕎麦を出す。それぞれの店の蕎麦切りの特徴は後述する。
現在、『かんだやぶそば』で使っている蕎麦粉は、製粉業者から仕入れているが、生粉打ちできちんとつながる品質であることが、納入の必要条件であるという。『かんだやぶそば』では、その蕎麦粉にクロレラを加え、つなぎを1割加えた「外一」で打っている。これが本当の「藪粉」である。

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